私は貨幣史の専門家ではないので、ここでは学術的な議論をしたいわけではない。そのような議論は専門の学者先生にお任せしたい。物語やアニメでは、かつておカネは貝殻や石として描かれていたりするが、日本銀行が定義するおカネは、簡単に言えば現金と預金だ。このうち現金には硬貨と紙幣がある。以下、それぞれを簡単に説明したい。
なお、類似した言葉として「貨幣」があり、一般的な用法としては現金とほぼ同義だが、日本の法律では硬貨と同義である。誤解の元となるので、ここでは「貨幣」は用いないこととする。
1.硬貨
硬貨は要するに金属の加工物だ。硬貨の歴史を造幣局ウェブサイトでみてみると、有名な和同開珎は西暦708年、富本銭は西暦683年に鋳造されたと書いてある。どちらも銅製だ。そのさらに前に無文銀銭というのもあったようだが、これは銀製なのだろう。江戸時代においても、幕府が発行したのは硬貨だった。
大雑把に言って、時代が古ければ古いほど金属の価値がおカネの額面と密接に結びつき、時代と共に額面が大きく上回るようになる。現在の500円玉の製造原価は、MUFG(2020年)によるとたった20円だそうで、加工費を除いた原材料費はさらに低額だ。つまり現在では、金属の価値は額面とほぼ無関係である。現在、硬貨を発行するのは政府である。
2.紙幣
国立印刷局のウェブサイトで「お札の歴史」をみると、江戸時代初期に伊勢商人の間で流通した山田羽書が最初の紙幣であり、1661年には福井藩が藩札と呼ばれる紙幣を発行している。私は藩札の歴史について詳しくはないが、当時流通していた幕府鋳造硬貨の流通が不足した場合に発行していたのだろう。経済活動の拡大を伴う発行であればデフレ対策となるが、財源不足で苦し紛れに発行したのであればインフレ政策となり、いずれ藩札は紙くずになる恐れがある。
紙幣は硬貨と比べると「形式的」な色彩が強まるようにみえる。なにがしかの金属価値のある硬貨と異なり、紙幣はただの紙切れというか、ただの印刷物だからだ。紙切れとしては、せいぜい古紙原料にする、鼻をかむ、メモを取るといった程度の用途しかなく、実質的に無価値と言える。MUFG(2020年)によると紙幣印刷のコストは1枚17円とされており、1万円札ならば差額は9,983円だ。現在、紙幣を発行するのは日本銀行である。
3.預金
銀行や郵便貯金などに預け入れてあるおカネのことで、クレジットカードやデビットカードを使って買い物すれば代金は預金口座から引き落とされるため、硬貨や紙幣の代用物になる。
昔は預け入れ、払い出し、残高の情報を通帳に記載したものだ。しかしもはや通帳は死語と化しており、これらの情報はインターネットバンキングにログインして確認するのが当たり前になった。通帳という紙媒体が無くなることで預金は、物理的には単なる電子情報に過ぎないことが一層明確となった。物理的な価値は明確にゼロと言える。
硬貨や紙幣は物理的な存在であるから、その製造装置(輪転機や鋳造機)に原材料を補充すれば増やせる。では、電子情報に過ぎない預金はどうやって増えるのだろうか?この問題は難解なのでここでは詳しい議論を避けるが、個人が手持ちの紙幣・硬貨を銀行に預けるケースを除けば、預金を増やすことができるのは日本銀行と民間銀行である。
以上の議論から明らかなことは、おカネの物理的な価値は、金属素材となる硬貨ですら非常に小さいものに過ぎないということだ。政府が本気になれば、おカネなどそれこそいくらでも作れる。こう言うと、法律論をかざして緊縮財政派が的外れな反論してくることがあるが、必要であれば法律など変えてしまえばいい、としか言いようがない。繰り返すが、政府はカネなどいくらでも作れるのだ。紙幣を例にとれば、プリンター(輪転機)を持っていることを前提に、紙とインクがあれば何枚でも作れることは、小学生でもわかるだろう。プリンターのインク交換を見せながらきちんと説明すれば、大部分の幼稚園児でもわかるだろう。
ではなぜ店に行くと、単なる金属片や紙切れ、あるいは単なる電子情報と、モノやサービスを交換してくれるのだろうか?これについてはいろいろな考え方があるが、MMT論者は「国家が税金としておカネを受け取るから信用がある」という説明の仕方をすることが多いと思う。1つの有力な考え方だろう。
<参考文献>
MUFG『お金の原価を徹底解説!日本の紙幣や硬貨の原価は?世界の貨幣の原価は?』2020年3月(2024年1月8日アクセス)
https://magazine.tr.mufg.jp/90130
独立行政法人国立印刷局『お札の歴史』(2024年1月8日アクセス)
https://www.npb.go.jp/ja/intro/ostu_history.html
独立行政法人造幣局『日本の貨幣の歴史』(2024年1月8日アクセス)
https://www.mint.go.jp/kids/history
日本銀行『日本貨幣史』(2024年1月11日アクセス)
https://www.imes.boj.or.jp/cm/history/

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