実質賃金とは物価の上昇分を差し引いた賃金のことで、その上昇率は名目賃金上昇率から消費者物価指数上昇率を減じたものだ。実質賃金が増えれば家計の購買力が増したこととなり、個人消費が盛り上がる要因となる。個人消費が盛り上がれば設備投資が増え、それが雇用環境を改善させてさらなる実質賃金上昇へと繋がる可能性が出てくる。まさにこれこそが、政府・日本銀行が目指す自律的な景気拡大だが、行き過ぎると労働力不足からインフレが目標を超えて高進することとなるだろう。すなわち、インフレ懸念を測る有力指標となる。現下の景気が政府・日本銀行が期待する方向に沿って動いているかどうかを判断するには、2%の目標を設定されたCPI自体をみるよりも実質賃金をみる方が妥当であり、その方が消費者の景気実感にも近いはずだ。
さて実質賃金上昇率の実績だが、執筆時点の直近2023年11月は前年比▲2.5%と、2022年4月以降20カ月連続で減少した。賃金上昇が主導する上述のような自律的景気拡大とは程遠い状況にあることがわかる。インフレ率は日本銀行が目標とする2%越えが続くものの、全く望ましい経済環境ではなく、当面の経済政策は景気刺激型でなければならない。2023年の春闘では、物価上昇を受け平均賃上げ率は+3.58%と1993年の+3.90%以来の高さだったが、この程度の賃上げでは物価上昇に抗えなかった。
しかし今後、いずれかの段階で実質賃金がプラスに転換するとの期待がある。その理屈は次のとおりである。
まず物価については、その主因であった円安やエネルギー価格の上昇は永続するものではない。利上げにより欧米の景気がクールダウンされ、これ以上の利上げやエネルギー価格の上昇が当面は見込みにくいためで、実際エネルギー高は2022年に、円安は2023年に止まっている。無論、長期的な円安傾向やエネルギー高傾向となることまでは否定しないが、通常は数年ぐらいの循環(上がったり下がったりすること)を繰り返すものだ。このため、2024年のCPI伸び率は低下するとの見方が大勢となっている。
次に賃金については、前年の物価上昇をみて春闘が実施されるため、2024年についても平均賃上げ率はそれなりに高い水準で決まる可能性が高い。すなわち2024年においては、比較的高い平均賃上げ率の元で、CPIの伸び率が低下することが見込まれるということだ。2024年度のいずれかの段階で実質賃金がプラスとなるか、日本銀行は慎重に見極めているものとみられる。
もし実質賃金がプラスになれば、これを起点に景気が自律的な拡大を開始する可能性はあるだろう。しかし、それには条件がある。政府が余計なこと、すなわち増税や社会保険の改悪をしないことだ。私はこの点を悲観的にみているが、実質賃金とは別の議論になるので、ここでは止めておこう。
インフレ懸念を測る指標④実質賃金は最重要指標の1つ
マクロ経済(基礎編)
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