これまでも色々と論じてきたが、おカネ(円)とは簡単に言ってしまえば「政府以外にとっては大変貴重」である一方で、「政府にとっては無コストで作れる、画面に表示されたただの数字」である。わが国で勝手に作ることができない米ドルなどの外貨や、材料費が極めて高い金貨とは全く違うのだ。円を調達するために必要な作業は、国債を発行し、それを日本銀行が買うだけである。政策協定を結んで実質的に日本銀行にロールオーバーさせ続ければ、元本返済は一切発生しないし、日本銀行への支払金利は国庫納付金として戻ってくるので利払いも実質的に発生しない。国債をキーボード操作で発行し、日本銀行もキーボード操作でいくらでも国債を買い入れることができる。全くの無コストでおカネなどいくらでも調達できるということだ。政府債務が国民1人当たりいくらだの、GDP比でいくらだの、歳出の何割が借金で賄われているだの、全く重要性に乏しい情報に過ぎない。
しかし、国債を無限に発行することは物理的には可能だが、現実には不可能である。おカネの増加を背景とする需要増に、供給増がいずれは追いつかなくなるためだ。そこで一般に注目されるのが労働力不足で、働き手が足りなければおカネを供給しても名目賃金が上がるだけで、生産は増えなくなる。しかし日本の場合、本当に人手不足はそんなに深刻なのだろうか。実際、執筆時点にて得られるデータ(2025年2月速報)では、実質賃金は未だマイナスではないか。またこれほどの低成長が続いてきたのだから、公共投資や設備投資による労働生産性の上昇余地はまだ大きいはずだ。本来はもっと投資が増えてしかるべきだったのだが、政府が「女性、高齢者、外国人」といった労働供給を増やす政策(=賃金低下政策)ばかりしてきたから市場が歪んでしまったのである。賃金が上がれば、余計な政策など打ち出さなくとも労働力供給は自然と増える。それが市場原理というものだ。
さて労働力不足による国内供給の制約は重要ではあるものの、抜け道がある。財貨・サービスの輸入だ。あまりに急激に需要を増やさない限り、輸入であればほぼ無限に供給可能なのである。制約要因は外貨であり、不足すればいずれは自国通貨が暴落し、ハイパーインフレへとつながるだろう。私のような新興国ウォッチャー(だった者)の方がこの点はよく理解しており、アジア通貨危機の引き金を引いたタイの通貨バーツが、財政収支黒字・政府債務残高僅少の状態で1996年に売られ始めたことは常識として知っている。国内財政がいくら健全であろうと、外貨が無くなればどうにもならないということだ。翻って日本は、本稿執筆時点で世界最大の対外純債権国だ(2位に落ちそうという話もあるようだが)。経常収支の黒字も大きい。国債発行を躊躇する理由など何一つないのである。

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