政府はやろうと思えば自らおカネを直接的にいくらでも増やせるが、現在の制度上はそうなっていない。硬貨・紙幣・預金のうち、政府が自ら直接的に発行しているのは硬貨だけで、それもたいした金額ではない。硬貨の最高額面は500円に過ぎないから、そもそも大量の資金を調達するのには向いていない。政府が資金を調達するときは、国債を発行して金融機関に買い取らせる形をとる。
ではなぜ、政府が直接おカネを発行せず、国債発行などというまどろっこしいことをやるのだろうか?これは、簡単に言えば高インフレ防止のためだろう。政府が財源不足を埋めるためにおカネをどんどん発行すれば、やがてはハイパーインフレになるはずだ。筆者は財政の歴史について詳しいわけではないが、そういう事例は歴史上多数あったのだろう。
ところが国債発行の場合、銀行などの投資家の評価にさらされることになる。国債を発行し過ぎると金利は上昇し、いずれ誰も買い取ってくれなくなるかもしれない。そうした緊張感があることが、財政規律の維持につながるわけだ。無論、政府が中央銀行に国債を押し付けるとこのメカニズムは働かなくなる。しかし多くの国において、中央銀行の独立性が高められた結果、押し付けられることはなくなった。この結果1990年代以降、総じてインフレは世界的に大きな問題ではなくなってきた。2022年以降の世界的インフレは久々感がある。
国債発行とは政府による通貨発行の一形態に過ぎないが、財政規律維持のため外見的に借金の形態をとっているに過ぎない。しかし、この外見ゆえに「国債発行=借金」という誤解が広くまかり通ってしまっている。誤解しているのは、具体的には自由民主党、立憲民主党、日本維新の会、財務省、経済団体、連合、経済学会、伝統的マスコミなどで、右から左まで主要権威のオンパレードだ。とりわけ経済同友会の歴代代表幹事は、代替わりしても緊縮財政の姿勢は一貫しているようだ。企業経営者なのだから、せめてバランスシートの左右、すなわち政府の債務だけでなく資産も見た上で論じることはできないものだろうか(実際にはこれも不正確な分析だと筆者は考える)。
そして、ネット民は別としても、一般有権者も大多数が誤解しているのではないだろうか?収入に見合った支出を維持するなんて家計や事業の観点からは当たり前、積極財政なんて打ち出の小槌のような話には騙されないぞ、と。「うまい話なんてない」と思い込むことは一般論で言えば正しく、変な儲け話に騙されないためには必要な思考だ。しかし前回のブログですでにみたとおり、国債発行は実質的に借金ではないのである。上述した主要政党、財務省、経済団体などの情報発信をみていると、彼らもそれほど深い考えがあって財政規律を主張しているわけではなく、一般国民のように「うまい話しなんてない」と思っているだけのようにみえる。一方で多くの経済学者は、既に自分の過ち(財政規律の尺度が政府債務や財政赤字の規模だと信じ込んでいたこと)に気付いていると個人的にはみているが、これまで財政規律が重要だと言ってきたため、今さら後に引けないのだろうと推測している。こうした誤解が解けない限り、日本経済の停滞は続くのだろうか・・・
健全財政を維持することは重要だが、それはあくまでインフレへの懸念の強弱で判断すべきであって、政府債務・財政赤字のGDP比や、1人当たりの国債発行額などに注目するのは的外れも甚だしい。この点を再度強調しておきたい。
政府はなぜ国債を発行するのか
マクロ経済(基礎編)
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