生産性に関する議論(1)そもそも生産性って何?

マクロ経済(基礎編)

 生産性は経済成長に関わる議論の本丸、核心の1つと言える。なぜなら主要な経済学者やエコノミストはたいがい、日本経済長期停滞の主因を生産性が伸びてないことに求めるからだ。需要がどんどん伸びている経済では、それに合わせて供給を増やさないと景気が過熱してしまうから、生産性を高める必要がある。世界の多くの国では需要がどんどん伸びているから、一般に生産性が中長期の経済成長を決定する大きな要因となることを否定するつもりはない。しかし、日本は需要がどんどん伸びている経済ではないというのが筆者の認識であり、従って低い生産性の伸びを低経済成長の主因とする考え方は間違いだと思っている。

 まず生産性とは何だろうか?経済学ではTFP(Total Factor Productivity、全要素生産性)という概念を用い、生産増加のうち労働投入の増加でも資本投入の増加でも説明できない残差部分を指す。と言うとわかりにくいので、ある人物が自営業でスーツの縫製に従事しているとする。実際には毎日多数の発注があるが、1日に1着を作る能力しかないので断らざるを得ない状況だ。あなたならどうするだろうか?
①従業員を雇う(労働投入)
 従業員を雇えば受注量を増やせる。
②ミシンを導入する(資本投入)
 設備投資でミシンを導入すれば、生産効率が上がり受注量を増やせる。
③技能を磨く(TFP上昇)
 訓練を通じて縫製の速度を上げたり、生産工程を見直したりするなどの努力をすれば受注量を増やせる。

 生産量は、上記のいずれの選択によっても増える。①は人数、②は設備投資額という数字で把握できるのに対し、③は数字で示しにくい。だからTFPは、生産増加率のうち、労働力投入でも資本投入でも説明できない、残差部分を指す。指数関数で示すのが通例だが、ここでは単純化のため足し算・引き算で示すと次のようになる。
 生産増加率=労働投入増加率+資本投入増加率+TFP増加率
∴TFP増加率=生産増加率-労働投入増加率-資本投入増加率

 さて、①の労働投入と②の資本投入が数字で表しやすいことは事実だが、これらはいずれも③のTFPにも影響することがある。
 まず①の労働投入は、全ての労働者の能力が完全に一致していれば人数だけで議論できるが、現実にはそんなことはあり得ない。物覚えの悪い労働者であれ飲み込みの早い労働者であれ、いずれも1とカウントされることになるからだ。上記の縫製の例でいうと人数を2人にした場合、生産量が1.5倍にとどまれば負の影響を、3倍に達すれば正の影響を、それぞれTFPに及ぼすことになる。
 ②の資本投入も、各設備の価格辺り生産量が完全に一致していれば金額だけで議論できるが、現実にはそんなことはあり得ない。例えば新型設備の価格は変わらないのに、その時間当たり生産量は倍以上になっていて、その事実を統計的に把握することが難しいということは十分にあり得る。その場合、資本投入の増加がTFPを高める可能性があるわけだ。他に、ある企業が設備投資を行うと、その顧客企業やサプライチェーン全体の生産性が高まる効果があることなどが知られている(スピルオーバー効果)。逆に古い設備が急激に故障がちになり、稼働時間が半減すれば、TFPを低めることになるだろう。

 既に文章が長引いているので、今回はここで終わりにする。(2)に続く。

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