一橋大学の佐藤主光教授は11月6日に日本経済新聞が報じた対談で、「財政規模は膨張させず、ワイズスペンディング(賢い支出)を求めるべきだ」、ガソリン減税をはじめとした財政拡張は「需要を増やすことになり、物価高を助長する」と主張した。佐藤氏は慶應義塾大学の土居丈朗教授と並び、緊縮派を代表する著名経済学者である。こんな発想では、失われた30年が40年、50年になるだけだと筆者は考える。
一橋、慶應、東大辺りの教授の肩書を持っている人の権威、あるいは日本経済新聞の権威はかつて絶大だったが、ネット世論では凋落の一途であり、筆者も「ああ、またあの人たちね」と思うだけだ。何がワイズかのお答えはお持ちなのか、またそう考える根拠は何なのか。35年もの経済低迷後でも、超一流大学教授から出てくる提言が「財政規模は膨張させない」「財政拡張はしない」では、市民の経済学に対する信認は失墜するのではないか。経済学はそもそも学問と言えるのか、と。
筆者の母校である早稲田大学は、かつて緊縮派とは比較的距離を置いていたように思うが、2005年に迎え入れた野口悠紀雄氏が緊縮財政の論陣を強化したために同列になってしまった。嘆かわしいことである。かつて野口氏はここまで緊縮派ではなかったように記憶しているのだが。
ワイズスペンディングで財政規律を重視しなければならないのは、過剰消費で輸入が増え、経常収支が悪化した国である。新興国エコノミストを長くやってきた筆者が理解するマクロ経済の枠組みでは、こういう結論になる。過剰消費の国に対する処方箋を、30年近くも実質賃金が下がり続ける国に当てはめるのは間違いだ。ステューピッドスペンディング(愚かな支出)でもいいから、とにかく迅速に財政支出を拡大しなければならない。
GDP統計の需要項目を思い出して欲しい。政府消費と公共投資が政府による支出だが、これらが増えればGDPも増えるのだ。その内容がワイズかステューピッドかなんて誰も気にしないではないか。需要不足経済において、プライマリーバランス黒字化を叫びながら、何がワイズかなんていう結論の無い議論をするばかりで財政出動をしなければ、景気はたちまち悪化してしまうのである。
またインフレ云々については、佐藤氏以外の人も指摘しがちだが、筆者に言わせればディマンドプルインフレ(円安ではなく内需拡大を原因とするインフレ)がいったん強まるからこそ、利上げが可能になり、最終的には円高に向かうのである。高市政権が目指すのは単純な円安政策ではない。無論インフレは長引くが、それを恐れていてはいつまでも経済は低迷せざるを得ない。

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