最初に、私はこれまでのところ唐鎌氏とは一切接点がないことを予めお断りする。また同氏が書いたレポートは殆ど読んだことがないし、出演するメディアも見たことがない。私がこれから書くことは、事実関係以外、基本的に推測である。
今回取り上げるのは、高市総理大臣が円安容認ともとれる発言をしたことに対し、みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏が高市総理の認識を批判するレポートをみずほ銀行の名前で発表した、という事件である。以下、何があったかAIに聞いたので、時系列で引用する(報道からの引用ではない)。
1.1月31日(土):川崎市での応援演説会における総理発言
◎今、円安だから悪い、悪いとばかり言われますけれども、私はそうは思いません。輸出産業にとっては、今こそが大チャンスなんです。 民主党政権のあの超円高で苦しんだ時代、日本企業は泣く泣く海外へ出て行きました。でも今は、円安がバッファーになって、国内で稼ぐ力が戻ってきている。これはものすごく助かりました。
◎円安でもっと助かっているのが、国にある外為特会(外国為替資金特別会計)です。この運用、今、ホクホク状態なんですよ。 こうした含み益もしっかり活用して、国民の皆様に還元していく道筋を私は作りたい。
◎もちろん、輸入コストが上がって苦労されている企業があることも知っています。しかし、そこは日本の経営者の皆様の創意工夫で、付加価値の高い商品を作って、しっかりと価格転嫁できる環境を政府も応援します。創意工夫があれば、この円安は必ずプラスに転じさせることができる。 そう私は信じています。
2.1月31日(土):ぶら下がり取材における総理発言
(円安を容認するのかという問いに対する回答)
◎円高がいいのか、円安がいいのかは、私らには分かりません。本来、総理が軽々に口にすべきことではないかもしれませんが、少なくとも今の状況を悲観するのではなく、チャンスとして活かしていくべきです。
3.2月1日(日):Xでの総理ポスト
(円安容認と受け取られたことに対する釈明)
◎昨日の演説での発言が一部で誤解を招いているようですが、私は決して現在の急激な円安を手放しで歓迎しているわけではありません。足元の輸入物価高騰が、国民の皆様の生活や中小企業の経営を圧迫していることは痛いほど理解しており、これを克服することは政権の最優先課題です。私の真意は、円安という与えられた環境を、日本企業の『創意工夫』と政府の支援によって、国内投資の拡大や賃上げの原資へと転換していく、つまり『為替変動に振り回されない強い経済構造』を今こそ構築すべきだという点にあります。メリット、デメリットを冷静に見極め、国富を最大化する決断を続けて参ります。
4.2月2日(月):市場の反応
1ドル=154円前後から1.5~2円程度の大幅下落
5.2月2日(月):唐鎌氏のレポート
高市氏の発言について、「為替が修正されれば、日本企業の行動変容(筆者注:国内投資活発化を指すとみられる)が劇的に期待できる」という前時代的な価値観が温存されている可能性の方が気になったし、さらに言えば、外為特会が果たして有事の際に温存されておくべき弾薬と理解されているのかどうかも気がかりであった」との結論のレポートを発表。
6.2月3日以降のネットの反応
保守系YouTubeなどネット上で、「銀行は利上げに消極的な高市政権の足を引っ張りたいだけだ」「銀行が選挙に干渉するのか」「みずほ銀行は財務省の指示で動いている」などと唐鎌レポート批判が噴出。
前置きが長くなったが、高市氏の当初の発言がやや不用意であったことは否めない。最初から、円安にはメリットとデメリットがあり、メリットを生かせるよう政府としても積極的に支援していく、と言うにとどめれば良かったのだ。もっと言うと、日本経済を強固にし、円がもっと買われるようにしたい、ぐらいまでは発言して良い。なぜなら、今は円安のデメリットを無視しえないからだ。それにもかかわらず、余計な発言で円安を招いてしまったのである。Xでの釈明はそのとおりだと思うので、個人的には問題ないと思う。
総じていえば小さな問題である。為替など、ちょっとした要人発言で上がったり下がったりするものだ。筆者はこう割り切れる立場の人間である。
これに対する唐鎌氏の反応に対してはどう評価すべきだろうか?円安で国内投資が盛り上がらなかったのはそのとおりだし、外為特会の為替差益など恒久財源にはなりえないというのもそのとおりだ。
ただし、銀行の名前でわざわざ出すべきレポートなのだろうか?円安で国内投資が活発化していない、というのはそのとおりだが、最近は明らかに産業政策的なアプローチで投資を活発化させようとしている。まず積極財政で内需を盛り上がらせるというのは一つの手段だ。また、防衛費増額や諸外国との協議を通じて、造船や半導体などの生産拠点を引っ張ってくることもやっている。高市氏自身も実際、Xで「政府の支援」と明言している。
外為特会の話についても、恒久財源にはならないが、市場介入で実際に儲かった分については当然一時的財源になる。当たり前だ。また唐鎌氏は、外貨準備の適正水準をどう考えているのだろうか?悪影響が大きい円安が続いている以上、外貨準備が過剰であれば、売却して為替差益を得ることに何の問題もないはずだ。無論、外貨準備売却は米国債の売却と同義だから、外交を通じて米国の理解を得る必要はあるかもしれない(本当なそんな義務はないが、対米関係を壊すわけにいかない)。
唐鎌氏の所属は国際為替部と書いてある。調査部やシンクタンクであればともかく、同氏の役割は政策提言ではなく為替予測である。つまり同氏の役割は高市氏の認識を批判することではなく、高市氏の人物像を含め情報収集・情報分析を行い、予測を当てることだ。当たらなければ厳しく問い詰められるのだろう。
一方みずほ銀行国債為替部は直前のレポートで、ドル円を1月平均の153.51円から2・3月平均の153円と小幅な円高を予測していた。要するに、自分が必死に情報収集を行い、時間をかけて丹念に分析した予測を、2月になる前に軽はずみな高市発言によりぶち壊されかねなかったということだ。筆者が唐鎌氏と同じ立場なら怒るだろう。
あくまで一般論だが、チーフマーケットエコノミストという立場であれば、レポートのチェック体制もそれほど厳しくないかもしれない。また民間銀行が政権を積極的に批判することも通常は考えにくいと思う。国家権力は怖いからだ。
ちなみに以前のブログで述べたとおり、筆者の基本的なスタンスは、為替を含めマーケットの予測などできるわけがないというものだ。実際、マクロ経済学の教科書にはそう書いてあるのだ。例えば1月のレートチェックや今回の高市発言など、誰が事前に予測できようか?

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