前回、財政規律を測る尺度は政府債務・財政赤字のGDP比や1人当たりの国債発行額などではなく、インフレ懸念の強弱であるべきだと述べた。この指標だけ見ていればいい、というような単純な話ではないことから、いくつか関連する統計を紹介してゆきたいと思う。インフレを示す代表的な指標である消費者物価指数(CPI)が、参照すべき統計であることは間違いないため、今回はCPIを取り上げたい。日本銀行が安定的に2%の上昇を目指すとしているのはこの指標である。
CPIは、総合指数、生鮮食品を除く総合指数(コア)、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア)、東京都区部のみの速報値などと複数ある。生鮮食品は天候、エネルギーは資源価格という変動が激しい要素に左右されるため、基調判断にはコアコア指数が相対的に優れている。日本銀行は、「特定のコア指標に依存するのではなく、様々なコア指標を総合的にみていくことによって、基調的な物価変動をより的確に把握することができると考えられます」として、さらに「上昇・下落品目比率、刈込平均値、最頻値、加重中央値」を試算している。CPIの評価は単純ではないということだ。
日本銀行が目指しているのは2%のCPI上昇率であり、特定のCPI水準ではない。私は趣味でよくヤフコメをみるが、この点を理解していない人が結構多いように見受けられる。またCPI上昇率を見る際の注意点として、足元の実績ではなく「将来安定的に推移するか」が重視されるということがある。通年のCPI上昇率は、2022年が+2.5%、2023年が+3.2%(注1)とすでに「安定的に2%以上」になっているように見受けられるが、実はそうとは言い切れない。
CPI上昇は、コストプッシュ型(生産コスト増大による物価上昇)とディマンドプル型(需要増大による物価上昇)に大別されるが、政府・日本銀行が目指しているのは後者だ。一方で2022年以降の物価上昇は、円安、資源高、世界的高インフレに伴い輸入物価の大幅上昇がみられたことと、賃金上昇率が物価上昇率を下回り続けたことから判断すると、明らかにコストプッシュ型だ。円安、資源高、世界的高インフレによる輸入物価上昇は循環的な現象(注2)であるし、そもそも望ましいものでさえない。つまり、政府・日本銀行の目標は全く達成できていないのである。
インフレを受けた賃上げが継続的に物価上昇率を上回るようになり、その結果として安定的に2%のCPI上昇率が達成できる見通しが出てくる可能性はあるが、現時点(2024年1月)ではまだはっきりしたことはわからない。賃金統計についてはまた後日取り上げたい。
最後に今回の投稿を総括すると、CPIは政府・日本銀行が直接的に目標を設定する重要統計ではあるものの、それだけみていても何もわからないということだ。何もわからないどころか、CPIの表面的な数字だけを見るのは害悪ですらあり、これをみて「利上げすべきだ」などと主張するのは論外である。せめて賃金統計と併せてみておいた方がいいだろう。
(注1)総務省『2020年基準消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)12月分及び2023年(令和5年)平均』による。統計は過去に遡って改訂されることがある。
(注2)長期的趨勢として円安・資源高となることもあるが、それにしても通常は数年単位の上がり下がりを繰り返しながら進行する。世界的高インフレについては、金融引き締めが行われているので低下基調となる(ただしコロナ禍前の水準まで低下するかは別問題)。
<参考文献>
日本銀行『基調的なインフレ率を捕捉するための指標』(2024年1月21日アクセス)
https://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm

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