失業率は、物価見通しを図る有力な指標である。企業の生産活動が活発なら雇用が増えて完全失業率が低下し、人手不足から賃金が上昇する。つまり物価の伸びを高める要因となる。企業の生産活動が停滞しているなら雇用が減って完全失業率が上昇し、人手余剰から賃金が低下する。これは物価の伸びを低める要因だ。完全失業率が上昇するときは消費者物価指数(CPI)伸び率が低下し、逆に完全失業率が低下するときはCPI伸び率が上昇する関係にあるということで、これを図示したものがいわゆるフィリップスカーブだ。
執筆時点で直近2023年11月の完全失業率は2.5%で、コロナ禍ピークである2020年10月の3.1%から0.6ポイント低下した。先進国の中では異例な好成績であるばかりではなく、かつてのバブル期並みの低さである。一方でコロナ禍前である2018・2019年平均で見た完全失業率は2.4%であり、2018年5月と2019年12月の瞬間風速は2.2%という低水準だった。そこまで下がっても賃金はろくに上がらなかったのだから、足元で2.5%まで低下したということだけを理由に、賃金が力強く上昇することにはならないと思われる(別の要因による上昇までは否定しない)。なお、統計データは事後的に改訂されることがあるのでご留意願いたい。
完全失業率が低いのに賃金が上がらず、結果的に賃金インフレの圧力は高まらない。だから、完全失業率はインフレ懸念(すなわち財政規律)を測る重要な指標の1つではあるはずなのだが、現状あまり参考にならない。だから、失業率が低いからと言って景気を引き締める政策を採用するのは論外である。
人手不足下の賃金低迷について、玄田有史東大教授が『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』という書籍を編集されている。私はこの書籍を読んだことがないが、須永(2018)に要点がまとめられているので、興味のある方は参照して欲しい。複数の要因が挙げられており、どれも説得力があると思う。私の意見は、せっかく労働需給がひっ迫してきたのに、また日本銀行が賃金上昇に向け全力で頑張っているのに(日銀は少しやり過ぎだ)、政府が間違ったことばかりするからこういうことになるということだ。この問題については機会を改めて議論を深めたい。
<参考文献>
須永努「読んでみたいこの一冊『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』●玄田有史編 慶應義塾大学出版会 2,000円+税」(『産業能率』2018.5・6月号)、2018年
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/12079/book_20185-6_1.pdf

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