インフレ懸念を測る指標③需給ギャップは参考程度に

マクロ経済(基礎編)

積極財政の貨幣観を解説する資料を作成しました

 本来の需給ギャップは、モノとサービスについて、実際の需要から最大供給力を減じたものだ。最大供給力を言い換えれば、労働力と設備を目いっぱい使った場合のGDPであり、最大概念の潜在GDPと呼ばれる。この需給ギャップこそが、インフレ圧力を最もストレートに示す指標だ。すなわち、インフレ圧力が強過ぎるなら景気を引き締める政策が、インフレ圧力が弱過ぎるならば景気を拡張させる政策が妥当ということになる。​
     需給ギャップ=実際の需要-最大供給力
     需給ギャップがプラス(需要超過):インフレ圧力
     需給ギャップがマイナス(供給超過):デフレ圧力
 しかし、この最大概念による需給ギャップはあまり使われなくなった。どうやら潜在GDPの数字が大きくなり過ぎてしまうためのようだ。それはそうだろう、必要とされない労働力や設備がゼロになることはないから、それらが目いっぱい使われることはありえない。
​ 最大概念の潜在GDPに代わって使われるようになったのが、平均概念の潜在GDPで、現在よく目にするのはこちらだ。簡易なもので良ければ、HPフィルタを使えばすぐに算出できる。これは労働と設備が過去平均の稼働状態であれば、デフレ圧力もインフレ圧力もない状態であることを示す。労働や設備がきちんと活用されてきたほとんどの国にとり、こちらでも意味のある数字になるだろう。しかし、日本のように長期間にわたり望ましい物価上昇を実現していない国にとり、こんな数字の水準にほぼ意味はない。過去平均の稼働ではデフレ圧力の方が強いに決まっている。​
 結論としては、現在巷に出回っている需給ギャップは日本への当てはまりが悪いので、これをもってインフレ圧力やデフレ圧力の有無を判断する材料にはならないと言えよう。こうした圧力の方向感を確認する程度にとどめたい。ただし、緊縮財政派が「需給ギャップのマイナスが解消されたからデフレ圧力などない」などという攻撃をしてきたときに反撃する材料となるので、ぜひ頭に入れておきたい。
 早速、島澤(2023)を用いて実践したい。島澤諭氏は関東学院大学経済学部教授で、東大経済学部を卒業し経済企画庁に入庁したというエリートである。仰っていることの骨子は、IMFのデータを引用しつつ「潜在GDPに達してもなお大幅な財政赤字だから、歳出削減か増税が必要。消費税で歳入を増やすなら12%強の税率引き上げに相当」というものだ。増税しても経済が縮小して歳入が減るだけではないかという疑問はとりあえず横に置き、IMFは最大概念・平均概念のどちらの潜在GDPを用いているのだろうか?IMFのWorld Economic Outlook Databaseが参照しているPaula R, De Masi (1997)には、「稼働率が(最大ではなく)正常」と書いてあるので平均概念と思われる。つまり過小推計だ。これを元に財政赤字を云々しても仕方がないと思う。
 そもそもPaula R, De Masi (1997)には「潜在GDPと需給ギャップは観察することができない変数であり、完全に満足のいく方法で推計することは難しい」とも書いてある。要するに精緻な統計ではないということだ。また、推計の基礎となるGDP統計の基準改定等により結構数字がぶれることもある。需給ギャップは参考程度に見ておくのが正しく、これをもって断定的に議論を進めるべきではないのだ。

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<参考文献>

島澤諭「日本は緊縮財政ではない。メタボ財政から脱却するには消費税換算で12%強のダイエットが必要という現実」(2023年9月25日)、2023年
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ca03fd6b2efd9caa7496af840f71eeff6f1638b3
Paula R, De Masi, IMF Estimates of Potential Output; Theory and Practices, in Staff Studies for the World Economic Outlook (Washington: IMF, December 1997), pp.4-5., 1997

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