私はもともと企業内でエコノミストを名乗っていたが、かつての同業者がいうことにどうも納得できないことは結構多い。その実例として以前に出口戦略・金融政策正常化を論じたが、今回は人手不足を取り上げたい。人手不足はマスコミでしきりに報じられており、それは疑いようのない事実として語られているように見える。しかし、マクロ経済分析のプロたるエコノミストが同じようなトーンで語るのはいかがなものかと思う。
企業側が募集する職種・労働条件と労働者が要望する職種・労働条件の不一致や、企業側が要望する労働者の能力・経歴と現実に労働者側が保有する能力・経歴の不一致などをゼロにすることは不可能だ。だから人手が足りない職種は常に存在する。建設作業員、介護従事者などは昔から人手不足であり、また現在であればインバウンド関連も人手が足りてないのだろうと思う。他にも多数あるだろう。職種に加え、現在は新卒者に対する需要過多が甚だしく、初任給はうなぎ登りである。もっともこれについては、かなり有名な企業でも「給与を増やして賞与を減らす」ということをやっていると報じられているので、ある程度割り引いて考えなければならないだろうが。
しかし、マクロとミクロの議論はきっちり分けなければならない。もっとも単純素朴な疑問は、そんなに労働力需給が引き締まっているならば、なぜ実質賃金が未だに減少を続けているのかという点だ。これはまさにマクロ統計の話であり、深刻な減少が続いているではないか。
また、一国経済全体の労働力需給を最も端的に示すのは完全失業率である。4月の実績は2.5%で、かなり需給は引き締まってきたものの、コロナ前の2018・2019年には一時2.2%まで低下している。その両年ですら実質賃金指数は伸び悩んでおり、2018年こそ+0.2%だったものの、2019年は▲1.0%へと沈んでいる。
こうした主要かつ単純なマクロ統計を横に置きつつ、ミクロな個別事象を取り上げて現在は人手不足だと言われても、どうにも納得できない。実質賃金が下がる人手不足とはどういうことか。私の解釈は全く違っており、労働市場は一貫して供給超過となっている。それにもかかわらず、高齢者、女性、外国人と供給を増やす政策ばかり推進してきたのが自公政権だ。賃金低迷下で必死に賃金低迷政策をやってきたのである。これらは状況次第では必要になる政策ではあるものの、賃金が正常な増加軌道に乗るまでなぜ待てないのか。そして自公と立憲民主、あるいは国民民主は、年金改悪によりさらに高齢者や女性の労働参加を促そうとしている。次期首相の有力候補とされる小泉進次郎氏は、労働供給超過の状態であるにもかかわらず、労働市場の規制緩和を主張した。本当に暗澹たる思いだ。
人手不足と並ぶ、エコノミストが主張しがちなおかしな議論が「日本経済の長期不振は生産性低迷が主因」というものだ。暫く多忙になるのでなかなか書けないが、いずれ論じてみたい。


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