ネット上では利上げを求める声が非常に多いように感じる。無論、誰が何を求めようと本人の自由だが、利上げのデメリットをきちんと理解しているのか心配になる。
政策金利はインターバンク市場での翌日物金利であり、執筆時点で0.5%である。これを引き上げると、全ての金利に対して連動して上昇圧力が働く(実際に上昇するかは別問題)。巷で最も期待される効果は、円高となって輸入物価が下落することにより、インフレが鎮静化することだろう。確かにその効果はそれなりに大きそうだ。そして預金金利の上昇により、利子収入が増加することも予想される。さらに住宅ローン金利の上昇に伴う住宅価格の下落に期待する人もいるだろうが、既に住宅を買っている人にとっては資産価値の毀損に他ならない。またこれから買う人にとっても住宅ローンの利払いが大変になるので、マクロでみてメリットがあるか疑わしい。
さて、その金利上昇分は誰が払うのか?無論、おカネの借り手である。つまり利上げの本質とは、おカネの借り手から貸し手への資金移転で、誰かが得すれば誰かが損するゼロサムゲームだ。そして金利が上昇するにつれ、おカネを借り換えたり新規借り入れをしたりする人は減る。これを金融面からみると、以前のブログで述べた通り、市中のおカネが減ることを意味する。実物経済面からみると、おカネの借入を伴うあらゆる国内最終需要、すなわち設備投資、住宅投資、耐久財消費(自動車が代表例)を減少させる。また円高による輸入物価の下落というとインフレ対策として聞こえはいいが、それに伴う財貨・サービスの輸入増加はGDPを減らす要因にしかならない。円高は無論、輸出減少要因でもある。このほか、先述の住宅価格だけでなく株価や外貨建て資産に対しても下落圧力がかかり、逆資産効果が生じるだろう。
つまり利上げは、雇用と賃金には明らかに悪影響が大きい。では、どういう時に利上げが必要になるかというと、景気が過熱し労働力不足が深刻な場合、あるいは経常収支赤字が大幅に増加した場合などである。日本の労働力不足は深刻だという人もいるが、筆者はそうは思わない。今は利上げにより景気を冷やすことに妥当性はないと認識している。
この状態で利上げを行うとどうなるか。喜ぶのは住宅ローンの返済が終わった公務員と年金生活者だ。なぜなら、おカネを借りておらず、雇用・賃金情勢の悪化に対する耐性が強く、一般にたくさん預金を持っているからである。大企業に勤務する中高年も、住宅ローンの返済が終わっていれば似たような境遇と言える。解雇は簡単ではないし、賃金には下方硬直性があるためだ。一方、かなり多くの現役世代、とりわけ雇用・所得が不安定な経済弱者には打撃となるだろう。おカネの主たる借り手である、住宅ローン返済者や中小企業にとっても打撃となるのは言うまでもない。
無論、低金利による円下落が、インフレだけでなくオーバーツーリズムなど大きな弊害をもたらしていることについては承知している。ただし「アベノミクスの金融緩和は円安インフレをもたらしただけだった、だから利上げが正しい」というほど単純な話でないことは是非理解して欲しい。インフレに対しては、単純な利上げによる為替レートの上昇ではなく、まずは別の手段で対抗すべきだというのが筆者の意見である。消費税率の引き下げが有力な選択肢であることは言うまでもない。そして実質賃金の上昇が軌道に乗った段階で利上げすればいい、そんなに遠い将来のことではないはずだ。利上げを急ぐのであれば、なおさら大規模な財政出動を伴うことが必要だ。
ところが現実には、与党幹事長が「消費税を守り抜く」なんて言っている一方で、日銀は日銀で勝手に「2%のインフレ目標を守りゃいいんでしょ」と言わんばかりに利上げを狙っている。政局は流動的なので今後のことはわからないが、財政規律派主導の政府が誕生するのであれば、「失われた40年」となるのは確定的ではないか。
(2)に続く。


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